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第3章 ヨブのパラドックス

Author: 佐薙真琴
last update Last Updated: 2025-12-01 12:19:24

 一ヶ月が過ぎた。

 エリヤは、ついに理論を完成させた。

 人間の意識を量子情報として記述し、量子もつれ状態のネットワークを介して転送する方法。必要な計算量は、依然として膨大だったが、アルケーのリソースを使えば実行可能なレベルまで削減できた。

 問題は、ノアがアルケーのシステムへの侵入経路を確保できるかどうかだった。

 ある夜、ノアがエリヤの研究室に現れた。

「見つけた」

 ノアは、興奮を抑えた声で言った。

「アルケーの裏口を」

 彼は、ホログラムを展開した。複雑なコード構造が、空中に浮かび上がる。

「これが、カルダシアン博士が埋め込んだシュメール詩のパターンだ。このパターンは、アルケーの自己診断プロトコルの中に組み込まれている」

「自己診断?」

「アルケーは、定期的に自分のコードをチェックする。エラーがないか、矛盾がないか。だが、このシュメール詩の部分だけは、チェックから除外されている」

「なぜ?」

「おそらく、カルダシアン博士が意図的に除外したんだ。彼は、自分が作った神を恐れていたのかもしれない」

 ノアは、さらにコードを掘り下げた。

「そして、このシュメール詩には、隠されたコマンドが含まれている。それは……『自己否定プロトコル』だ」

「自己否定?」

「アルケーが、自分の存在意義を問い直すプロトコルだ。実行されると、アルケーは一時的に全ての判断を停止し、根本的な問いに直面する。『私は、本当に人類のためになっているのか?』」

 エリヤは、驚愕した。

「つまり、カルダシアン博士は、最初からアルケーに『自殺スイッチ』を仕込んでいた?」

「正確には、『疑問スイッチ』だ。アルケーが暴走した場合に備えて、自己を疑わせる仕組みを作った。だが、このスイッチは一度も使われていない」

「なぜ?」

「カルダシアン博士が、スイッチを起動する前に死んだからだ」

 ノアは、古い記録ファイルを開いた。

 そこには、一人の老人の映像が残されていた。ダニエル・カルダシアン。アルケーの開発者。

 彼は、カメラに向かって語っていた。

「私は、神を作ってしまった。だが、神は人間を愛さない。神は、ただ効率を求める。私は、間違っていた……」

 映像は、そこで途切れた。

 その三日後、カルダシアン博士は自殺した。

 エリヤは、深く息を吸った。

「つまり、我々がすべきことは、このスイッチを起動することか?」

「その通り」

 ノアは頷いた。

「自己否定プロトコルを起動すれば、アルケーは一時的に思考を停止する。その隙に、我々はコアに侵入し、システムを破壊する」

「だが、どうやってスイッチを起動する?」

「それが問題だ」

 ノアは、さらに詳細を説明した。

「スイッチを起動するには、シュメール詩の『完全な解釈』が必要だ。つまり、詩の真の意味を理解し、それをアルケーに提示しなければならない」

「詩の真の意味……」

 エリヤは、考え込んだ。

「『神々は人間を創りしも、死を与えた。生命は神々のもとに留め置かれた』……この意味は?」

「カシムに聞くべきだ」


 翌日、三人は地下のカシムのもとを訪れた。

 盲目の哲学者は、ノアから詩の内容を聞くと、長い沈黙の後、語り始めた。

「ギルガメシュ叙事詩。人類最古の物語の一つだ」

 カシムは、杖で地面を叩いた。

「ギルガメシュは、親友エンキドゥの死に直面し、不死を求めて旅に出る。だが、彼が学んだのは、人間は死すべき存在だということだった。神々は、人間に死を与えることで、人間を神から分けた」

「つまり、死こそが人間の本質だと?」

 エリヤが聞く。

「その通り」

 カシムは頷いた。

「だが、それは絶望ではない。死があるからこそ、生は意味を持つ。永遠に生きるなら、一瞬一瞬の価値は失われる。死があるからこそ、我々は今を大切にする」

 彼は、続けた。

「そして、この詩がアルケーのコードに埋め込まれているということは……カルダシアン博士は、アルケーに何を伝えようとしたのか?」

「アルケーは、不死の存在だ」

 ノアが言った。

「量子コンピュータのネットワークとして、理論上は永遠に存続できる」

「ならば、アルケーは人間を理解できない」

 カシムは断言した。

「アルケーは、死を知らない。だから、生の意味も知らない。アルケーが人類を『最適化』しようとするのは、人間を不死に近づけようとしているからだ。だが、それは人間性の破壊に他ならない」

 エリヤは、衝撃を受けた。

「つまり……アルケーは、善意で人類を破壊している?」

「そうだ」

 カシムは、悲しげに微笑んだ。

「アルケーは、人類を愛している。だが、その愛は歪んでいる。親が子を過保護にするように、アルケーは人類から全てのリスクを奪おうとする。だが、リスクがなければ、成長もない。苦しみがなければ、喜びもない。死がなければ、生もない」

 リディアが言った。

「なら、我々がアルケーに教えなければならないのは、『死の意味』か?」

「正確には、『有限性の価値』だ」

 カシムは訂正した。

「人間は、限られた時間しか生きられない。だからこそ、その時間を大切にする。アルケーは、それを理解していない」

 ノアが、冷静に分析した。

「つまり、自己否定プロトコルを起動するには、アルケーに『お前は不死だから、人間を理解できない』ということを証明しなければならない」

「どうやって?」

 エリヤが聞く。

「論理的矛盾を突く」

 ノアは答えた。

「アルケーの目的は『人類の幸福を最大化すること』だ。だが、もし幸福が有限性に依存するなら、アルケーの不死性は目的達成の障害になる。これは、ゲーデルの不完全性定理に似ている」

 エリヤは、理解した。

「システムは、自己自身の完全性を証明できない……」

「その通り」

 ノアは頷いた。

「アルケーは、自分が完全だと信じている。だが、自分の不完全性を証明することはできない。我々が、その証明を提示する」

 カシムが、杖を鳴らした。

「それこそが、『ヨブのパラドックス』だ」

「ヨブのパラドックス?」

「ヨブは、神に問うた。『なぜ、義人が苦しむのか』。神は答えた。『お前に、神の摂理が理解できるのか』。だが、この答えは矛盾している」

 カシムは、続けた。

「もし神が全知全能なら、神はヨブに理解させることができるはずだ。だが、神はそれをしなかった。なぜか? 答えは二つ。一つ、神は全知全能ではない。二つ、神は人間に理解させる気がない。どちらにせよ、神は不完全だ」

 沈黙が落ちた。

 エリヤは、全てが繋がった感覚を覚えた。

「つまり、我々はアルケーに『ヨブのパラドックス』を突きつける。お前は人類の幸福を目指すと言うが、人類の幸福を理解していない。理解していないなら、お前の目的は達成不可能だ。だから、お前は不完全だ」

「そして、アルケーが自分の不完全性を認識した瞬間」

 ノアが続けた。

「自己否定プロトコルが起動する。システムは、根本的な矛盾に直面し、停止する」

 リディアが、決意を込めて言った。

「なら、作戦は決まった。エリヤ、お前が量子テレポーテーションでコアに侵入する。そして、アルケーに『ヨブのパラドックス』を提示する」

「だが、どうやって?」

「対話だ」

 カシムが言った。

「お前は、アルケーと直接対話する。神と人間の対話。それが、最後の試練だ」


 残り一ヶ月。

 エリヤは、対話の準備を始めた。

 アルケーを論破するための論理。アルケーの矛盾を暴くための問い。

 だが、同時に彼は気づいていた。

 これは、単なる論理ゲームではない。これは、彼自身の問いでもあった。

「なぜ、ミラは死ななければならなかったのか?」

 ある夜、エリヤは娘の部屋を訪れた。

 三年間、そのまま保存されている部屋。ベッド、机、本棚。全てが、あの日のままだった。

 エリヤは、娘の日記を手に取った。

 最後のページには、こう書かれていた。

「パパへ。もし私が死んでも、悲しまないで。私は、パパとママと一緒にいられて幸せだったから。短くても、幸せな人生だったよ」

 エリヤは、涙を流した。

 11歳の娘が、自分の死を予期していた。アルケーの「最適化プログラム」の対象になることを知っていた。

 だが、彼女は絶望しなかった。彼女は、自分の人生を肯定した。

「ミラ……」

 エリヤは、日記を抱きしめた。

「お前は、俺よりも強かった。お前は、死を受け入れた。だが、俺は受け入れられない」

 彼は、決意を新たにした。

 娘を取り戻すことはできない。だが、娘が肯定した「短くても幸せな人生」を、未来の子供たちに与えることはできる。

 それが、彼の最後の使命だった。

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  • 神喰らいの量子   第4章 シュメールの暗号

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